感慨 −黒猫の思い出−
昼寝をしていたら、「ディーノ」の声がした。
ディーノ、ってのはうちのボスの赤い馬の名前。
やたらとうるさく鳴く奴。
まぁ、ボスのお気に入りだから仕方ないけど。
表からボスの声と、聞いたことのない人間の声も聞こえて、
客なんて珍しいと思って迎えに出た。
黒髪の人間。
いい男じゃない。
見上げたら、その人間が私を指差した。
「この子、なんて名前なんだ?」
「ブレイクだよ。」
「私はブレイクよ。」
名乗ったら、ボスも答えた。
その人間、私の前に膝抱えてしゃがんで、私の顔を覗きこんだ。
「へえ、美人だな。」
「あら、あんた、猫を見る目があるわね。」
そう言ってやったら、私を抱え上げて、ソファに座った。
「メスだよな?」
「そうよ。」
見りゃわかるでしょうが。
「そうだよ。岩城さん、猫好きなんだ。」
「ああ、まぁな。」
「へえ、あんた岩城さんていうんだ。あんたは、オスよね?」
見てたら、うちのボス、この岩城さんて人のことが好きみたい。
オスなのに。
でも、岩城さんは気付いてないわね。
報われない恋ってやつ?
もてるくせして。
まぁ、せいぜい頑張りなさいな。
・・・まさか、あとでこのオスがメスになるとは、この時は思わなかったわね。
終わり
弓
2007年11月23日